生活習慣病Topics : 将来を見据えた冠動脈疾患危険因子の包括的管理

日本人における冠動脈疾患発症の生涯リスク -脂質異常症の影響

冠動脈疾患の危険因子管理に対する動機づけには、将来のリスクを患者さんに分かりやすく説明できる指標が求められます。
生涯リスク(ライフタイムリスク)」は、生涯のうちに特定の疾患に罹患/死亡する可能性(割合)を示す指標であり、直感的に理解しやすいため、市民向けの疾患予防の啓発などで用いられます。
欧米の循環器疾患の疫学研究では、「10年リスク」だけでなく「生涯リスク」も示されていましたが、日本では「吹田研究」が端緒となりました。
吹田研究の「10年リスク」に基づいて作成された「吹田スコア」は、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』で、個々の患者の管理目標値を定めるリスク評価に用いられています。 また、吹田研究では「生涯リスク」も算出されており、近年、高コレステロール血症の有無別の生涯リスク(男女、年齢別)も報告されました(図11)
「現在45歳の男性が、今後の人生で新しく冠動脈疾患を発症する可能性は、LDL-Cが160mg/dL未満の場合13.7%だが、LDL-Cが160mg/dL以上の場合は47.2%」(図1)など、動脈硬化性疾患予防の動機づけに、患者さんにとって解釈しやすい生涯リスクを活用することが有用です。

図1 冠動脈疾患の生涯リスク:高コレステロール血症の有無
目的 :
LDL-C値による冠動脈疾患の生涯リスクを検討する。
対象 :
無作為に抽出された国立循環器病研究センターで1989年9月~1994年3月に定期健診を受診した30~79歳の吹田市民のうち、データ不備・追跡不可能、脂質低下服用、冠動脈疾患既往例を除いた5407例(男性2559例、女性2848例)
方法 :
血液サンプルは絶食後10時間経過したものを採取してLDL-C値等を測定した。冠動脈疾患発症の調査は2年ごとの繰り返しの通院と、その後の郵送あるいは電話でアンケートを実施することで健康状態を確認し、次に冠動脈疾患が新たに発症した疑いのある参加者、または肝動脈疾患が原因で死亡した参加者の診療情報を確認した。
解析計画 :
2007年12月まで冠動脈疾患発症と死亡を追跡した。冠動脈疾患の発症について、男女別、年齢階層別(45歳、55歳、65歳、75歳)、高コレステロール血症の有無別(LDL-C値のカットオフ値は160mg/dL)に、他疾患での死亡による競合リスクを考慮して生涯リスクをmodified survival analysis techniqueを用いて解析した。

Sugiyama D, et al.: J Atheroscler Thromb 27: 60, 2020より作図

重複する危険因子の評価と、包括的管理

脂質異常症治療では、患者さんが保有する様々な危険因子を確認し、リスクに応じて治療を進めます2)
冠動脈疾患の既往のない一次予防の患者では、吹田スコアで求める絶対リスクに基づいて層別化し、管理目標値を決定します。そして、糖尿病や慢性腎臓病(CKD)などを有する場合は、厳格な管理が必要な「高リスク病態」と区分されます。
そのため、例えば女性の患者さんの場合、男性よりも絶対リスクは低いものの、糖尿病など他の危険因子の重複状況によっては厳格な管理が求められることを患者さんに理解いただき、個々のリスクに応じた治療に取り組んでいただくことが大切です。
そして、「脂質異常症診療ガイド」では、危険因子の重複状態について「厳格な管理を要することを常に念頭に置くべきである」とし、生活習慣の改善とともに薬剤介入を含めた包括的管理の重要性を指摘しています3)

図2 脂質異常症治療のための管理チャート

日本のリアルワールドで確認された包括的管理の意義

日本人約30万人の健康保険加入者のデータから、管理目標を達成できている危険因子(血圧、LDL-C、HbA1c、喫煙状況)の数が、冠動脈疾患発症リスク低下に与える影響についての解析結果が報告されました(観察期間 平均約4.8年)4)
糖尿病がなく、2つの危険因子の管理を達成している者(糖尿病なし、達成している因子の数2)を対照としました(図3)。対照と比べると、すべての因子の未達成者(糖尿病なし、0)は、冠動脈疾患発症リスクが4.22倍高いことが示されました。
そして、糖尿病がある場合、すべての因子の未達成者(糖尿病あり、0)では9.36倍でした。危険因子の重複に伴うリスクの上昇が示されています。

図3 危険因子の管理目標達成状況が冠動脈疾患発症リスクに与える影響
目的 :
糖尿病の有無別に冠動脈疾患の危険因子の管理目標達成状況が冠動脈疾患発症リスクに与える影響を検討する。
対象 :
企業の健康保険組合のデータベースに基づく株式会社JMDCのデータベースに登録された18~72歳の220,894例(ベースラインに冠動脈疾患のある症例、LDL-C値294mg/dLを超える症例、血液検査を含む健診データがない症例は除外した)
方法 :
2008年4月から2013年3月の間に3年以上追跡した症例のデータを組み入れ、最長で2016年8月まで観察し、危険因子管理目標達成状況と冠動脈疾患発症の関連を検討した。危険因子の管理目標管理状況は、ベースラインの検査値より、日本糖尿病学会の診療ガイドラインに基づいたカットオフ値で判定し、冠動脈疾患の発症は診療情報により判定した。
解析計画 :
冠動脈疾患のハザード比は、年齢、性別、BMI、HDL-C、降圧薬、脂質異常症、血糖降下薬で補正したCOX比例モデルを用いて解析した。

Yamada-Harada M, et al.: J Clin Endocrinol Metab 104(11): 5084, 2019より作図

さらに、この研究の別の解析では、達成している因子ごとの冠動脈疾患発症リスク低下度も確認されています(図4)。

糖尿病なし
喫煙・血圧・LDL-C 達成者は、同3因子の未達成者と比較して82%リスクが低い
糖尿病あり
血圧・LDL-C・HbA1c達成者は、同3因子の未達成者と比較して80%リスクが低い

冠動脈疾患発症リスクの低下を目指すうえで、糖尿病の有無にかかわらず修正可能な因子を包括的に管理する重要性が、リアルワールドで確認されました。

日常診療では、脂質異常症やその他の危険因子を複数合わせ持つことの、生涯への影響の大きさ、生活習慣改善・薬物療法などで治療する意義を患者さんに知っていただくこと、そして、患者さんが、ご自身の保有する危険因子や必要な包括的管理について理解し、医師と共に治療を進めていくことが大切です。

図4 危険因子の管理目標達成状況が冠動脈疾患発症リスク低下にもたらす影響(糖尿病有無別)
目的 :
糖尿病の有無別に冠動脈疾患の危険因子の管理目標達成状況が冠動脈疾患発症リスクに与える影響を検討する。
対象 :
企業の健康保険組合のデータベースに基づく株式会社JMDCのデータベースに登録された18~72歳の220,894例(ベースラインに冠動脈疾患のある症例、LDL-C値294mg/dLを超える症例、血液検査を含む健診データがない症例は除外した)
方法 :
2008年4月から2013年3月の間に3年以上追跡した症例のデータを組み入れ、最長で2016年8月まで観察し、危険因子管理目標達成状況と冠動脈疾患発症の関連を検討した。危険因子の管理目標管理状況は、ベースラインの検査値より、日本糖尿病学会の診療ガイドラインに基づいたカットオフ値で判定し、冠動脈疾患の発症は診療情報により判定した。
解析計画 :
冠動脈疾患のハザード比は、年齢、性別、BMI、HDL-C、降圧薬、脂質異常症、血糖降下薬で補正したCOX比例モデルを用いて解析した。

Yamada-Harada M, et al. : J Clin Endocrinol Metab 104(11): 5084, 2019より作図

1) Sugiyama D, et al. : J Atheroscler Thromb 27(1):60, 2020

2) 日本動脈硬化学会編:動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2018年版 : 40, 2018

3) 日本動脈硬化学会編:動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2018年版 : 4, 2018

4) Yamada-Harada M, et al. : J Clin Endocrinol Metab 104(11) : 5084, 2019

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