患者さんの生命予後を重視した慢性心不全治療とは?
患者さんの生命予後を重視した慢性心不全治療とは?
監修 JCHO 星ヶ丘医療センター 院長 増山 理 先生
日本における慢性心不全患者を対象とした観察研究、CHART-1研究では、軽症のNYHAⅡ度でもⅠ度に比べて3年後の生存率が有意に低いことが示されました(p<0.005;log-rank
test)。
NYHAⅡ度は軽症とはいえ、生命予後改善を見据えた治療を行う必要があります。
本研究が開始された2000年当初は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の処方率は20.8%
1)
と少なかったのですが、近年では
死亡や心不全による入院の減少を目的としたMRAの追加投与が注目されています
。
1)Shiba N. et al.: Circ. J. 68(5): 427. 2004

セララはACE阻害薬/ARB、β遮断薬、利尿薬による治療への追加投与によってNYHAⅡ度 * の慢性心不全患者の予後改善作用が示された薬剤です
ACE阻害薬/ARB、β遮断薬、利尿薬による治療を受けてもなおNYHAⅡ度の症状を呈し、左室収縮機能不全(HFrEF)を伴う慢性心不全患者を対象とした大規模試験、EMPHASIS-HF試験では、ACE阻害薬/ARB、β遮断薬、利尿薬による治療に加えてセララを追加投与した結果、心血管死または心不全による入院リスクが、セララを追加投与しなかった場合と比較して37%低下し、セララ投与群のプラセボ群に対する優位な抑制が認められました(HR=0.63[95%
CI, 0.54-0.74]、p<0.001)。このエビデンスに基づき、
2016年の欧州心臓病学会(ESC)心不全治療ガイドライン
1)
では、生命予後改善を見据え、重症心不全だけでなくNYHAⅡ度からMRAを追加投与することを推奨
しています。
NYHAⅡ度以上であれば、慢性心不全患者の予後を考えた治療として、セララを追加する意義は大きいといえます。
* NYHAⅡ度:軽度の身体活動の制限がある。安静時は無症状。日常的な身体活動で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心症を生じる。
1)Ponikowski, P. et al.: Eur Heart J. 37(27): 2129, 2016

セララの慢性心不全における用法及び用量:
通常25mgから開始、その後4週間以降を目安に50mgに増量

セララの慢性心不全における使用方法は、高血圧症と以下の点で異なります。
①用法及び用量
〈慢性心不全〉
通常、成人にはエプレレノンとして1日1回25mgから投与を開始し、血清カリウム値、患者の状態に応じて、投与開始から4週間以降を目安に1日1回50mgへ増量する。
ただし、中等度の腎機能障害のある患者では、1日1回隔日25mgから投与を開始し、最大用量は1日1回25mgとする。
なお、血清カリウム値、患者の状態に応じて適宜減量又は中断する。
〈高血圧症〉
通常、成人にはエプレレノンとして1日1回50mgから投与を開始し、効果不十分な場合は100mgまで増量することができる。
②禁忌
高血圧症患者に禁忌である以下の患者さんは、慢性心不全においてはより頻回に血清カリウム値を測定する(カリウム製剤は血清カリウム値を定期的に観察する)となっています。
・微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者
・中等度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス30mL/分以上~50mL/分未満)のある患者
・カリウム製剤を投与中の患者

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるセララは、
NYHAⅡ度以上の慢性心不全患者に追加投与することで、
患者さん
の生命予後改善に貢献します。
〈参考〉
CHART-1研究
【目的】
日本人の慢性心不全患者における予後および死亡の予測因子を検討する。
【対象】
以下のいずれかに該当し、標準治療を受けている18歳以上の安定慢性心不全患者1,154例。[LVEF<50%、左室拡張末期径≧55mm、心不全を発症(1回以上)]
【試験デザイン】
多施設共同、観察研究
【方法】
2000年2月~2003年2月に東北地方における26施設の慢性心不全患者を登録し、追跡調査を行った(平均追跡期間1.9年)。
【評価項目】
全死亡、心血管イベントによる入院
【解析計画】
Kaplan-Meier法を用いて死亡率を算出し、多重Cox回帰分析により死亡率と各因子の相関を検討した。
Shiba N. et al.: Circ J 68(5): 427. 2004
EMPHASIS-HF試験 [海外データ]
【目的】
収縮不全を伴うNYHA心機能分類Ⅱ度の慢性心不全患者に対するエプレレノンの有効性を評価する。
【対象】
55歳以上、NYHAⅡ度、LVEF≦30%またはLVEF≦35%でQRS間隔>130msecの心不全患者2,737例。罹病期間が4週間以上でACE阻害薬/ARB、β遮断薬、利尿薬による治療を受けている、6ヵ月以内の心血管疾患による入院の既往がある(入院の既往がない場合はBNP≧250pg/mL、またはNT-proBNPが男性で≧500pg/mL、女性で≧750pg/mL)患者を対象とした。
【試験デザイン】
国際多施設共同(29ヵ国278施設)、無作為化、並行群間、プラセボ対照、二重盲検比較試験
【方法】
エプレレノン25mgあるいはプラセボを1日1回(eGFRが30~49mL/min/1.73m 2 の被験者は隔日)投与した。4週目以降、血清カリウム値<5.0mmol/Lの場合は1日1回50mg(eGFRが30~49mL/min/1.73m 2 の被験者は1日1回25mg)に増量した。その後、4ヵ月ごとにカリウム値を測定し用量調節を行った。
【主要評価項目】
心血管死または心不全による入院
【副次評価項目】
全死亡または心不全による入院、全死亡、心血管疾患を原因とする死亡、全入院、心不全による入院、心血管疾患を原因とする入院、等
【解析計画】
主要評価項目ならびに副次評価項目におけるハザード比、ハザード比の95%信頼区間及びp値は、投与群を主因子とし、年齢、eGFR、LVEF、BMI、ヘモグロビン、心拍数、収縮期血圧、糖尿病、高血圧症、心筋梗塞、左脚ブロックもしくはQRS幅130msec超、心房細動を共変量としたCox比例ハザードモデルを用いて算出した。p値の計算には、Wald検定を用いた。
【安全性】
因果関係が否定できない有害事象は、エプレレノン群280例(20.6%)、プラセボ群218例(15.9%)に認められました。主な副作用は、高カリウム血症(エプレレノン群6.6%、プラセボ群2.8%)、腎機能障害(エプレレノン群1.4%、プラセボ群0.9%)、浮動性めまい(エプレレノン群1.0%、プラセボ群1.6%)でした。
重篤な有害事象は、エプレレノン群37例(2.7%)、プラセボ群30例(2.2%)でした。投与中止に至った有害事象は、エプレレノン群46例(3.4%)、プラセボ群42例(3.1%)でした。
因果関係が否定できない重篤な有害事象としていずれかの群で0.5%以上に認められたは高カリウム血症(0.9%、0.2%)であった。因果関係に関わらず投与中止に至った有害事象は、エプレレノン群で13.8%,プラセボ群で16.2%で、頻度が高い順に心不全(エプレレノン群 4.0%,プラセボ群 4.4%)、死亡(エプレレノン群 1.2%,プラセボ群0.9%)、高カリウム血症(エプレレノン群1.1%,プラセボ群 0.9%)、腎機能障害(エプレレノン群 1.0%, プラセボ群 0.4%)であった。
Zannad, F. et al.: N Engl J Med.
364(1):
11, 2011 (承認時評価資料)
(COI:ファイザーは本試験をサポートし、著者Dr.Zannadに講演料を支払っています)
社内資料:外国人慢性心不全患者を対象とした第Ⅲ相試験

セララを適正にご使用いただくために
[資材作成年月日:2021/09]
セララの慢性心不全と高血圧との用法及び用量の違いや、カリウムマネジメントについて解説いたします。
監修:心臓・腎高血圧・健康研究所 所長
名古屋市立大学 名誉教授
独立行政法人 労働者健康安全機構 旭労災病院 名誉院長 木村 玄次郎 先生
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