Point
- MRの活性化は心不全の増悪を来しますが、心拍出量や交感神経の活性化が起こることでRAA系がさらに活性化するという悪循環が形成されます。
- アルドステロンは、脳や心臓などの副腎外組織においても産生されることに加え、高血糖状態でもRAA系の活性化に伴い、組織局所での産生が促進される可能性が示唆されています。
- アルドステロンには、心筋細胞の脱水を阻止する短期作用と、心肥大を促進するMR依存性長期作用の二相性作用があります。
心不全とアルドステロン/MR そして利尿ペプチド
監修
東京慈恵会医科大学 内科学講座 循環器内科 講師
名越 智古 先生
心不全では、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系など、さまざまな神経体液性因子が賦活化されており、これらが複雑に相互作用することで病態が形成・進展します。また、心不全では過剰に発現、活性化されたMRにより、心血管組織の肥大・線維化やリモデリング、さらには心臓の拡張・収縮障害を来すことにより、結果的に心不全の増悪を来します。それに伴い、さらなる心拍出量低下や交感神経の活性化が起こることでレニンを活性化して、RAA系がさらに活性化するという悪循環が形成されます(図1)。
アルドステロンは、副腎で合成される循環アルドステロンに加え、脳、心臓、血管、腎臓、脂肪など各種組織で合成される組織アルドステロンが存在することが知られています(図2)。このことは、血中の循環RAAとは独立して組織RAA系が病態形成に関与している可能性を示唆しています。
加えて、糖尿病などの高血糖環境下では、組織RAA系が活性化されることでアルドステロン合成が促進されることが示されています 1) 。このように、アルドステロンの産生にはさまざまな要因が関与しています。
アルドステロンの体細胞に及ぼす作用は、心不全の病態に深く関与しているMRを介したゲノム作用と、MR以外の因子が関与している非ゲノム作用の2つに大きく分けることができます。高Na濃度下で培養したラットの心筋細胞に対して、アルドステロンを短時間刺激すると心筋細胞の脱水を阻止します(短期作用:非ゲノム作用)。一方、アルドステロンを長時間刺激すると、心筋細胞の肥大が促進されることが明らかにされています(長期作用:ゲノム作用)(図3) 2) 。
また、重症心疾患の病態生理の根幹には、心臓エネルギー代謝障害があります。心筋におけるエネルギー(ATP)産生は通常主に脂肪酸代謝に委ねられていますが、重症心疾患急性期の心筋では、エネルギー産生効率の点でより有利な糖代謝へのsubstrate switchingが起こります。しかし不全心筋は、酸化ストレスを含めたさまざまなメカニズムにより、インスリン抵抗性状態となっており 3) 、糖の利用障害が起こることで、結果的に“エネルギー飢餓状態”に陥ると考えられます 4) 。
アルドステロンによるMRの持続的な刺激・活性化は酸化ストレスを介して、インスリン抵抗性の誘導に関与していることが示唆されています。以上のように、心不全ではMR活性化による心筋細胞の肥大や酸化ストレス、それに伴うインスリン抵抗性も病態形成に重要な役割を果たしています。
不全心においてはMRが活性化される一方で、ANPやBNPなどのナトリウム利尿ペプチドが大量に産生・分泌されます。ANPやBNPは、RAA系の作用に拮抗し、ナトリウム利尿促進や血管拡張作用に加え、心肥大・線維化・リモデリングの抑制、さらには交感神経活性を抑制します。このように、ANP・BNPが心不全において血行動態の維持に作用することは広く知れわたった事象ですが、実は骨格筋や脂肪組織に作用し、各組織のエネルギー代謝に関与している可能性が最近明らかになりつつあります。さらに組織低灌流を伴う不全心より大量に産生・分泌されるNPが、脂肪組織を介して組織保温効果を発揮している可能性も示唆されています 5,6) 。心不全治療ではRAA系の阻害が根幹となります。加えて、血行動態やエネルギー代謝の点からもANPやBNBといったナトリウム利尿ペプチドも心不全治療においては重要であり、これらを補充することでバランスを保つことも必要だと考えます。
アルドステロン-MRカスケード賦活化の心血管病における病態生理学的意義を考える際、食塩並びに糖濃度環境とのかかわりはたいへん重要と考えます。実験的にも高食塩・高糖濃度環境において、アルドステロンのMRを介した病態生理学的作用は顕著になることが報告されております。これは、糖尿病と高血圧の合併が心血管系障害を促進、増悪させることの間接的証明に他ならないわけです。したがって、塩分摂取制限を含めた徹底した食事療法が心不全治療の根幹であることは強調されなくてはならないかと思います。
このように進化の時間軸からするとあまりに劇的に変化した現代の生活環境において、本来、生命の維持に不可欠であるはずのアルドステロンは、その生理学的意義に反し、さまざまな心血管疾患の病態形成に寄与しているわけです。また、MRはアルドステロン結合以外にも、コルチゾールや酸化ストレスなどさまざまな機序を介してその活性化が制御されているわけで、スピロノラクトンやエプレレノンなどの従来より抗アルドステロン薬と呼ばれる薬剤は、単なる降圧、利尿作用に限定されないpleiotropic effectsを期待でき 7,8) 、アルドステロンのみにとらわれないMR拮抗薬として、その重要性を我々に認識させたわけであります。
<文献>
1) Fujisaki M et al: Biomed Res Int. 2013:161396, 2013
2) Yamamuro M et al: Endocrinology. 147(3):1314, 2006
3) Nagoshi T et al: J Clin Invest. 115(8):2128, 2005
4) Nagoshi T et al: Curr Pharm Des. 17(35):3846, 2011
5) Collins S: Nat Rev Endocrinol. 10(3):157, 2014
6) Kimura H et al: Sci Rep. 7(1):12978, 2017.
7) Zannad, F. et al.: N Engl J Med. 364(1):11, 2011
8) Pitt, B. et al. : N Engl J Med 348(14):1309, 2003
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