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低リスク2型糖尿病患者に対するスタチンのCVDまたは死亡リスクへの影響

2型糖尿病(T2DM)の低リスク集団において、スタチンによる一次予防を行い、高い服薬コンプライアンスを達成することで、T2DMに関連する心血管イベントまたは死亡のリスクが低減されるかを検討した 、Malmborg Mらによる大規模後ろ向き研究の結果がJournal of the American Heart Associationに発表された。
スタチンは、T2DM患者における心血管疾患(CVD)の一次予防および二次予防に多く使用されている。しかし、T2DMの低リスク集団における心血管リスクに対するスタチンの有効性に関するデータは限られている。
同研究グループは、T2DM診断後6ヵ月以内にスタチンを投与された患者を対象に、1年以内の薬剤服用日数の割合(Proportion of Days Covered:PDC)を算出した。心筋梗塞(MI)、脳卒中、全死亡のうち、いずれかの初回発生を複合エンドポイントとした。77,170例中42,975例(56%)がスタチンによる治療を受け、そのうち31,061例(72%)はPDC≧80%を達成した。70~79歳の男性では、スタチン治療を受けた場合の5年標準化リスクは22.9%(95%CI:21.5-24.3%)であったのに対し、未治療の場合は29.1%(95%CI:27.4-30.7%)と、6.2%(95%CI:4.0-8.4%)の有意なリスク低下が示された(p<0.0001、図A)。年齢が高い集団ほどスタチンによるCVDリスクの低下が大きくなった(女性:40~ 49歳0.0%[95%CI:ー1.0-1.0%]、80~89歳10.8%[95%CI:7.2-14.4%])(図B)。
結論として、T2DMの低リスク集団において、スタチンの使用はMI、脳卒中または全死亡の初回発生を複合エンドポイントとしたときの5年標準化リスクの低下と関連し、男性ではすべての年齢集団で、女性では50歳以上の集団でそのリスクが低下した。また、年齢の高い集団ほど、リスクの低下が大きくなった。

図A. 男性(70-79歳)の5年CVDリスク

図A. 男性(70-79歳)の5年CVDリスク

図B. スタチンに関連するCVDリスクの低下

図B. スタチンに関連するCVDリスクの低下

出典:
Malmborg M, Schmiegelow MD, Gerds T, et al. Compliance in Primary Prevention with Statins and Associations with Cardiovascular Risk and Death in a Low-Risk Population with Type 2 Diabetes Mellitus. J Am Heart Assoc. 2021;10(13):e020395.

最新の話題

選択的PCIでの即日退院の安全性についての報告:実臨床における分析

全国規模の大規模レジストリの分析により、選択的な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の即日退院後の転帰について検討した。同研究は、2009~2017年に選択的PCIを受けた患者819,091例のデ ータを対象とした。期間中に即日退院による選択的PCIを選択した患者の割合は、大腿動脈アクセスでは 4.3%から19.5%、橈骨動脈アクセスでは9.9%から 39.7%となり、それぞれ5倍および4倍の増加がみられた(図1)。解析対象患者212,369例の転帰について、即日退院が増加したにもかかわらず、30日死亡率に有意な変化はなかったと報告されている。また、リスク補正後、30日以内の再入院リスクが低下した。これらの結果から、患者の転帰に影響を及ぼすことなく、入院費削減ができる可能性が示唆された。

図1. 選択的PCIで即日退院をした患者の割合

図1. 選択的PCIで即日退院をした患者の割合

出典:
Bradley SM, Kaltenbach LA, Xiang K, et al. Trends in Use and Outcomes of Same-Day Discharge Following Elective Percutaneous Coronary Intervention. JACC Cardiovasc Interv. 2021; 14:1655-66, 1667-69.

ガイドラインの更新

STS/SCA/AmSECT/SABM 血液管理に関する臨床実践ガイドラインアップデート

Society of Thoracic Surgeons(STS)は、患者の血液管理に関する最新データを検討し、The Society of Thoracic Surgeons and the Society of Cardiovascular Anesthesiologistsの血液保存ガイドラインの2011年版を更新するために、Society of Cardiovascular Anesthesiologists(SCA)、American Society of ExtraCorporeal Technology(AmSECT)、Society for the Advancement of Blood Management(SABM)のメンバーを含む専門分野横断的な有識者会議を招集した。
今回のアップデートでは、輸血リスクの高い患者の転帰を最適化し、血液資源を保存するために、エビデンスベースの多面的・集学的なアプローチが重要であることが強調されている。

  • ガイドラインアップデートのハイライト:#

  • 介入タイプに基づく患者の血液管理に関する推奨 ‒ ACC/AHA、エビデンスクラスI レベルA*
  • 術前介入

    術前に高リスク患者の同定を行うべきであり、この患者集団では術前および術中に実施可能なあらゆる血液保存の手段(輸血に使用する血液を確保するため)を講じるべきである。

  • 血液製剤および血漿分画製剤

    アンチトロンビンIII濃縮製剤は、アンチトロンビン依存性ヘパリン耐性を有する患者における血漿輸血を減らすため、心肺バイパス術(CPB)直前に適用される。

  • 自己血回収介入

    遠心分離による自己血回収の日常的実施は、CPBを用いた心臓手術における血液保存に有用である。

ACC/AHA:American College of Cardiology/American Heart Association;CPB:心肺バイパス術
#ここでは、クラスI、レベルAの推奨事項についてのみを取り上げる。
*クラスI:有効性がリスクを大幅に上回る強い推奨;レベルA:1件以上の無作為化比較試験(RCT)、質の高いRCTのメタアナリシス、質の高い登録研究で裏付けられた1件以上のRCTから得られた質の高いエビデンス。

出典:
Tibi P, McClure RS, Huang J, et al. STS/SCA/Am SECT/SABM Update to the Clinical Practice Guidelines on Patient Blood Management.
Ann Thorac Surg. 2021;S0003–4975(21)00556-7.

特集記事

血管攣縮性狭心症患者における運動トレーニングの有効性の証明

冠動脈血管運動異常は、虚血性心疾患の病態生理において中心的な役割を果たしており、内皮機能不全と冠動脈攣縮を伴うことが多い。血管攣縮性狭心症(VSA)患者では、冠動脈血管運動異常が、心外膜冠動脈だけでなく冠微小血管にも発生することがある。カルシウムチャネル遮断薬(CCB)は、心外膜冠動脈攣縮に対して広く使用されているが、微小血管の攣縮を伴う狭心症患者では効果が限られている。最近、International Journal of Cardiologyに掲載されたSugisawaらによるデュアルプロトコル試験では、CCBを使用しているVSA患者の冠動脈微小血管における血管拡張能に運動が及ぼす影響について評価された。
プロトコル1では、VSA患者38例と非VSA患者17例(対照群)を対象に、アデノシンによる動的コンピューター断層撮影灌流(CTP)を用いて心筋血流(MBF)が測定された。プロトコル2は無作為化対照試験で、VSA患者30例が3ヵ月間運動トレーニングを行った群(運動群)(n=10)と非運動群(n=10)に無作為に割り付けられた。
プロトコル1集団では、VSA群においてCTP上のMBFが対照群と比較して有意に減少した(138±6 vs 166±10mL/100g/分、p=0.02)。プロトコル2集団では、運動群の運動能力は非運動群と比較して有意に増加した(11.5±0.5~15.4±1.8 vs 12.6±0.7~14.0±0.8mL/分/kg、p<0.01)。同様に、MBFは3ヵ月後に運動群でのみ有意に改善したが(運動群:145±12~172±8mL/100g/分、p<0.04;非運動群:143±14~167±8mL/100g/分、p=0.11)、有意な群間差は認められなかった。本研究の結果は、VSA患者における冠動脈微小血管の血管拡張能の低下と、身体能力向上におけるCCBと併用した運動トレーニングの有効性を示す初めてのエビデンスであると考えられる(図A)。

図A

図A

出典:
Sugisawa J, Matsumoto Y, Takeuchi M, et al. Beneficial effects of exercise training on physical performance in patients with vasospastic angina. Int J Cardiol. 2021;328:14–21.

研究の紹介

カリスタチンの発現上昇が腹部大動脈瘤の発生を遅らせる可能性

腹部大動脈瘤(AAA)の病理発生には、炎症、血管平滑筋細胞アポトーシス、酸化ストレスが重要な役割を果たしている。これまでの動物研究とin vitro研究では、セリンプロテアーゼ阻害剤であるヒトカリスタチン(KAL)は、炎症、細胞アポトーシス、活性酸素の発生を抑制することが報告されている。Nature Scientific Reportsに掲載されたKrishna SMらによる最近の研究では、実験的マウスモデルと患者で、AAA発症におけるKALの役割について検討された。
リン酸カルシウム(CaPO4)およびアンジオテンシンII(AngII)皮下注入マウスモデルにおいて、ヒトKAL遺伝子(KSTg)のトランスジェニック過剰発現により、または遺伝子組み換えヒトKAL(rhKAL)の投与により、AAAの発生が抑制された。AAAの危険因子を保有する65 歳以上の男性956例の血液サンプルから、血清KALとAAAの診断および拡大との間に負の相関が認められた(Spearmanのρ=−0.173、p=0.004;図A)。AngIIの存在下で、またはヒトAAA血栓由来条件培地で培養された血管平滑筋細胞にrhKALを投与したところ、酸化ストレスマーカーが減少し、アポトーシス率が低下した。一方、マウスモデルと患者においてKALを上昇させたところ、酸化ストレスマーカーの減少、大動脈エラスチン分解の程度の軽減、大動脈内における血管平滑筋細胞アポトーシス減少が認められた。KALのこの作用は、KS-TgマウスとrhKAL投与マウスの両方の大動脈内におけるサーチュイン1活性の亢進と関連していた。本研究から、KAL-サーチュイン1シグナル伝達は、酸化ストレスと血管平滑筋細胞アポトーシスを減少させることにより、大動脈壁リモデリングおよび動脈瘤発生を抑制する可能性が示唆された。

図A

図A

出典:
Krishna SM, Li J, Wang Y, et al. Kallistatin limits abdominal aortic aneurysm by attenuating generation of reactive oxygen species and apoptosis. Sci Rep. 2021; 11:17451.