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開放隅角緑内障のリスクを予測する遺伝的リスクスコア

開放隅角緑内障(OAG)は、適切な時期に診断がなされないと、無症候性かつ不可逆性の視力喪失の重大なリスクとなります。注目すべきは、緑内障患者の半数が未診断であり、それは、一般集団におけるOAGリスクの層別化において改善が必要であることを意味しています。Siggs OMらは、ポリジェニック変数とモノジェニック変数を比較し、OAGのリスクを予測する目的で、オーストラリアとニュージーランドの進行緑内障のレジストリ(ANZRAG)から2,507名、および英国バイオバンクに登録された欧州系人の横断コホート研究から411,337名の臨床的および遺伝的データを抽出してベンチマークとなる横断研究を実施し、その結果をJAMA Ophthalmologyに発表しました。OAGのモノジェニック変数は、メンデル形態の緑内障遺伝子(MYOC、CYP1B1、OPTN、またはTBK1)における病原性、または病原性の可能性のある変数を有するものと定義しました。遺伝的リスクの影響は、高いポロジェニックリスクの閾値を、選抜せずに、先祖が一致する集団の上位5%として設定することによって定義しました。
著者らによると、英国バイオバンクから得られたコホートでは、遺伝的リスクがOAG発症率の有意な上昇と相関することがわかりました(オッズ比[95%信頼区間]:2.77[2.58-2.98])。これは、原発OAGを発症させるモノジェニック変異として最も一般的なMYOC p.GIn368Terヘテロ複合を有する集団における発症リスクと同等でした(オッズ比[95%信頼区間]:4.19[3.25-5.31])。ANZRAGコホートにおけるOAG発症リスクは、MYOC p.GIn368Terヘテロ複合群の2.6%に対し、ポリジェニックリスク群では15.7%と6倍以上となり、一般集団においてはそれぞれ0.32%、5.0%とポリジェニックリスク群で15倍以上となりました(図A)。また、ANZRAGコホートにおける緑内障診断時の平均年齢については、ポリジェニックリスク群とMYOC p.GIn368Terヘテロ複合群間に違いはみられませんでした。
著者らは、こうした遺伝リスクによる層別化は、OAG初期におけるハイリスク患者の特定を促進する、有益な追加的スクリーニングツールとなりうると考えています。

図A. 開放隅角緑内障のリスク

図A.開放隅角緑内障のリスク

出典:
Siggs OM, Han X, Qassim A, et al. Association of Monogenic and Polygenic Risk with the Prevalence of Open-Angle Glaucoma.
JAMA Ophthalmol. 2021;139(9):1023-1028.

特集記事

血管リスク因子は加齢黄斑変性症(AMD)患者の脈絡膜パラメータを悪化させる可能性がある

光干渉断層撮影(OCT)の導入は、網膜と脈絡膜の構造のin vivoでの定量的評価の実施を可能にしました。OCTを使った脈絡膜血管分布に関する最近の研究は、脈絡膜微小循環の障害が、加齢黄斑変性症(AMD)の発症と進行の誘因となる可能性を示唆しています。
Nature Scientific Reportsに発表されたKrytkowska Eらの症例対照研究は、共存する血管リスク因子が脈絡膜の状態に影響を及ぼすか否かを評価するために、AMD患者の黄斑領域における脈絡膜厚および容積の変化を検討しました。AMD群にはAMD患者354例(萎縮型AMD175例、滲出型AMD179例)、対照群には健康人121名を登録しました。参加者について、脈絡膜厚および容積を含む、全般的な眼科検査を実施しました。年齢、性別、喫煙状況により調整した多重解析の結果、以下の所見が報告されました。

図B. 滲出型AMDの眼における脈絡膜厚と脈絡膜容積の、代表的な深部強調画像OCT(EDI-OCT)とCVIスキャンおよび平均測定値

図B.滲出型AMDの眼における脈絡膜厚と脈絡膜容積

対照群との比較において、滲出型AMDは以下の項目に関連する独立因子である:

  • 高い中央リング領域脈絡膜厚(ATC)[ATC;β=+0.18, p=0.0007]
  • 中央リング領域脈絡膜容積(AVC)[AVC;β=+0.18, p=0.0008]
  • 低い脈絡膜血管指数(CVI)[CVI;β=-0.42, p<0.0001;図B

萎縮型AMDと比較すると、滲出型AMDは以下の項目と関連する:

  • ATCおよびAVCの高値(β=+0.17, p=0.00003)
  • CVIの低値(β=­-0.30, p<0.0001)

高血圧症および虚血性心疾患(IHD)を有するAMD患者では、ATC、AVCおよび平均脈絡膜容積(AV)の低値が認められました。高血圧症の罹患期間はATC(Rs=-­0.13, p<0.05)、AVC(Rs=-0.12;p<0.05)およびAV(Rs=-0.12;p<0.05)と逆相関関係があり、IHDの罹患期間はAV(Rs=-­0.15, p<0.05)と負の相関関係を示しました。
著者らは、AMD患者における脈絡膜血管系は、全身性血管疾患の併存により障害のリスクが高くなる可能性があると結論づけました。この所見は、遺伝的体質やAMDなどの病理学的異常により脈絡膜のパラメータに変化がある場合、加齢や何らかの血液循環障害により進行性障害が発生するリスクが非AMD眼よりも高くなるという、二重に影響する機序を示唆しています。

出典:
Krytkowska E, Grabowicz A, Mozolewska-Piotrowska K, et al. The impact of vascular risk factors on the thickness and volume of the choroid in AMD patients. Sci Rep. 2021;11(1):15106.

最新の話題

スマートフォンとティーンエイジャーの屈折異常は関連しているか?

近視の有病率は世界中で上昇しており、欧州の若年成人でほぼ50%、東アジアの都市部では若年成人の80~90%に及んでいます。Ophthalmologyに発表されたEnthoven CAらによる横断研究では、オランダ人ティーンエイジャー(n=525)を対象に、Myopiaアプリを用いてスマートフォンの使用と屈折異常との関連について評価が行われました。このアプリは研究グループによって開発されたもので、客観的な測定を行うために、スマートフォンの使用と顔から画面までの距離を電子的に登録しました。参加者について、毛様体筋麻痺の屈折異常と眼の生物統計学的測定を実施しました。

研究で得られた知見:

  • 休憩時間なしの1日あたりのスマートフォン20分間連続使用回数は、平均(±SD)6.42±4.36回でした。
  • 登校日においては、スマートフォンの連続使用は、等価球面度数(SER)および眼軸長/角膜曲率半径比(AL/CR)との有意な関連性が認められました。SERおよびAL/CRは、それぞれ標準偏回帰係数(β)[95%信頼区間(95%CI)]=-0.07[-0.13,-0.01]、β[95%CI]=0.004[0.001-0.008]でした。
  • 上記の関連性は、屋外に出ることが少ないティーンエイジャーでのみ有意でした。SERおよびAL/CRは、それぞれβ[95%CI]=-0.10 [-0.20,-0.01]、β[95%CI]=0.007[0.001- 0.013]でした。
  • 休日においては、スマートフォンの使用とSERおよびAL/CR、また顔から画面までの距離とも有意な関連は認められませんでした。
  • 最長20分のスマートフォンの連続使用は、特に屋外に出ることが少ないティーンエイジャーで、より高頻度に近視屈折異常と関連していました(図C)。

図C. 継続的なスマートフォンの使用は屋外に出ることが少ないティーンエイジャーで屈折異常を増加させる可能性があります。

図C.継続的なスマートフォンの使用

著者らは、オランダでスマートフォンを使用するティーンエイジャーに対し、頻繁に休憩をとることの重要性を強調しています。

出典:
Enthoven CA, Polling JR, Verzijden T, et al. Smartphone use associated with refractive error in teenagers; the Myopia app Study. Ophthalmology. 2021;S0161-6420(21)00518-2. [Online ahead of print]

ガイドラインの更新

米国眼科学会(AAO)は内因性カンジダ眼内炎のスクリーニングについての推奨を発表

米国眼科学会(AAO)は最近、カンジダ血症による眼内感染症に対するスクリーニングをルーチンで行うべきか再評価を行いました。カンジダの血流内感染のある患者さんに、眼内感染をルーチンとしてスクリーニングを実施することは、全身性抗真菌薬の使用とカンジダ血症による眼疾患の定義が統合される前に確立していました。しかしながら、現在のルーチンのスクリーニングにおけるカンジダ血症の有病率は、7,500人の系統的レビューから1%未満と報告されています。加えて、カンジダ血症の患者さんはしばしば貧血、高血圧症、血小板減少症などの併存症があり、眼科医に診断ジレンマをもたらす可能性があります。そのため、米国感染症学会(IDSA)は、血液培養の結果が陰性になった後、少なくとも2週間は抗真菌薬の処方が必要であり、その他の感染源である留置カテーテルを直ちに交換することに加えて、全身性カンジダ血症を早い時期に疑い、診断を行うことの重要性を提唱しています。同時にAAOは、過剰な診断・治療を避けるために、カンジダ血症などのカンジダの血流内感染から起こる眼内感染のルーチンとしてのスクリーニングの実施は価値が低いという概念を提案しています。当学会は、内因性カンジダ眼内炎のいくつかのエビデンスに基づいた文献に従って、カンジダ血症のスクリーニングを最小限にすることを助言しています。

内因性カンジダ眼内炎のスクリーニングに関するAAOの推奨

  • 眼内感染症に関する徴候または症状を含む臨床的根拠のある患者に対しても、眼科医による診察が合理的である。
  • 現在のエビデンスは、全身性カンジダ血症の臨床検査所見が得られた後のルーチンとしての眼科診察を支持していない。そのため、この価値の低い眼科診療は取り入れるべきではない。
  • 今後はいかなる推奨も、眼科と感染症の専門医の協力を通して決定されるべきである。
  • その様な努力と将来の研究は、視力を脅かす疾患の発症と文献内のカンジダ血症の眼科スクリーニングの潜在的ベネフィットの間に存在する矛盾を排除するに違いない。

出典:
Breazzano MP, Bond III JB, Bearelly S, et al. American Academy of Ophthalmology recommendations on screening for endogenous Candida endophthalmitis. Ophthalmology. 2021;S0161-6420(21)00526-1. [Online ahead of print]

研究の予告

増殖糖尿病網膜症でみられる血管新生と炎症の新規バイオマーカー

増殖糖尿病網膜症(PDR)の発症と進行に、血管新生と炎症のプロセスが重要な役割を果たしていることが知られています。血管内皮増殖因子(VEGF)と表面抗原(CD146)などのバイオマーカーは、血管新生と炎症促進性について広く研究されてきました。Investigative Ophthalmology and Visual Scienceに最近発表されたEl-Asrar AMらによる報告では、PDRの病態生理における可溶型CD146(sCD146)経路の役割について検討が行われました。CD146は異なる種類のがんで発現上昇が確認され、その過剰発現が予後悪化と関連していることが発見されました。加えて、sCD146が血管内皮においてVEGF受容体-2の共受容体であり、血管新生の仲介物質であることが明らかにされました。sCD146は、膜型CD146が細胞外基質分解酵素(MMP)により放出されることで産生されます。
本研究には、PDR患者41例と非糖尿病患者27例から採取された硝子体サンプル、PDR患者18例から採取された網膜上線維血管増殖組織、ラット網膜、ヒト網膜毛細管内皮細胞(HRMEC)、ヒト網膜ミュラーグリア細胞が用いられ、これらについてELISA、ウェスタンブロット解析、免疫組織化学、免疫蛍光顕微鏡検査が実施されました。PDR患者由来の硝子体サンプルは、非糖尿病患者と比較してsCD146およびVEGFが有意に高いレベルを示しました。ウェスタンブロット解析では、糖尿病ラットの網膜におけるCD146蛋白質レベルが有意に増加し、sCD146はミュラーグリア細胞におけるリン酸化細胞外シグナル制御キナーゼ(リン酸化-ERK1/2)、活性化B細胞の核因子カッパ-軽鎖エンハンサー(NF-κB)、VEGF、基質分解酵素-9(MMP-9)の有意な上昇を誘導しました(図D)。加えて、正常ラットへのsCD146の硝子体注射は、リン酸化-ERK1/2の蛋白質レベル、細胞間接着因子-1(ICAM-1)、VEGFの有意な発現増加を誘導しました。CD146の分子生物学に関するこれらの新しい知見は、この経路がPDRの発症と進行に関連しており、抗-VEGF薬と併用することで、PDR患者に対する有用な治療ターゲットとなる可能性を示しています。

図D. ヒト網膜毛細管内皮細胞(HRMEC)によるsCD146産生の制御における分子相互作用と、血管新生信号のオン切り替えにおける、網膜ミュラーグリア細胞に及ぼす影響。

図D.ヒト網膜毛細管内皮細胞(HRMEC)

出典:
El-Asrar AM, Nawaz MI, Ahmad A, et al. CD146/Soluble CD146 Pathway is a Novel Biomarker of Angiogenesis and Inflammation in Proliferative Diabetic Retinopathy. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2021;62(9):32.