注目の話題

加齢黄斑変性症と関連するリスク要因:メンデルのランダム化分析

  • 加齢黄斑変性症(AMD)は、全世界の失明の8.7%を占めており、欧米諸国では失明原因の第1位になっています。今後20年間で、AMDの有病率は47%まで増加すると予想されています。
  • 予防的な処置を講じる前に、進行性AMDの原因であって、修正可能なリスク要因を特定することが重要です。
  • 2標本のメンデルのランダム化(MR)分析を実施しました。:遺伝子変異のサマリーデータは、特定の遺伝子変異が関連している進行性AMDおよびそのサブタイプとは重複しないサンプルから得られたものです(図1)。

図1. 関連する遺伝子変異のサマリーデータ

図1.関連する遺伝子変異のサマリーデータ

進行性AMDのリスク要因として、禁煙、喫煙(習慣的に喫煙したことがある)、喫煙開始年齢、空腹時インスリンは、進行性AMDのリスク要因として有意ではなかった(逆分散加重単変量MR分析)。

Kuan V, et al. JAMA opthalmol. 2021;10:E1-E10.より作図

  • これら曝露因子を対象とした最大規模のゲノムワイド関連解析(GWAS)により、喫煙の実態、アルコール摂取、BMI、血圧および血糖値の特徴に関するサマリーレベルの統計結果が得られています。
  • 研究の成果は図2で説明されています。

図2. 研究成果

図2.研究成果

AMD:加齢黄斑変性症; CI:信頼区間; GA:地図状萎縮; OR:オッズ比; SD:標準偏差

  • 遺伝子的に予測された血圧、BMIまたは血糖値が、進行性AMDと関連していることを示す十分なデータはありませんでした。

結論

遺伝子データに基づいた結論として、

  • アルコール摂取量の増加は、地図状萎縮(GA)のリスクと因果関係があります。
  • 喫煙開始年齢と死亡するまでの喫煙行動は、進行性AMDのリスクと因果関係があると考えられます。
  • 禁煙は、喫煙を続けた場合に比べて、進行性AMDのリスクを低減します。
  • これらの関連性は、GAの場合よりも新生血管AMDの場合に強く認められました。

高齢者の進行性AMDの有病率を下げるためには、禁煙やアルコール摂取量の削減を促す公衆衛生キャンペーンやプログラムにおいて、これらの行動が失明につながるという情報を盛り込む必要があります。

出典:
Kuan V, Warwick A, Hingorani A, et al. Association of smoking, alcohol consumption,blood pressure, body mass index, and gliycemic risk factors with age-related macular degeneration:A mendelian randomization study JAMA opthalmol. 2021;10:E1-E10.

特集記事

漿液の役割:黄斑部に網膜下液が存在する様々な疾患の解説

種々の眼疾患は、黄斑部に漿液性網膜下液(SRF)を引き起こし、臨床的には中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)に類似した症状を呈する可能性があります。また、様々な全身疾患や健康の状態によっても黄斑部にSRFが生じることがあり、そのため臨床的にCSCに類似した症状を呈することがあります。
これらの疾患とCSCを区別することは難しいため、著者はCSCの広範囲にわたる鑑別診断を提唱します。この研究では、各疾患に特有の病態機序に焦点を当て、鑑別診断につなげています。これらの疾患は、大きく分けて12種類の主要な病態サブグループに分類されます(図1)。
また、この研究には、以下の要素も含まれています。

  • 疾患、臨床的特徴、鑑別診断的側面、ならびに疾患に適した治療の選択肢。
  • 黄斑部網膜下液の蓄積を伴う2つの新しい臨床像、すなわち網膜色素上皮細胞が欠落した漿液性黄斑症と非特異的脈絡膜症による漿液性黄斑症。

図1. 12種類の主要な病態サブグループ

図1.12種類の主要な病態サブグループ

RRD:裂孔原性網膜剥離; TRD:牽引性網膜剥離

Van Dijk EHC, Boon CJF. Prog Retin Eye Res. 2021;4:100955.より作図

網膜色素上皮細胞が存在しない漿液性黄斑症と非特異的脈絡膜症による漿液性黄斑症(図2AおよびB)。

図2 A. 69歳女性遠視患者(+4ジオプター)で、漿液性黄斑症と網膜色素欠損がみられる右眼のマルチモーダルイメージング(画像A~J)

図2A.69歳女性遠視患者

A. 光干渉断層計(OCT)解析画像(右眼):中心窩
→網膜色素上皮細胞が存在しない
→網膜色素上皮細胞が存在する
B. 光干渉断層計(OCT)解析画像(右眼):脈絡膜ひだ
C. 眼底画像(右眼)
D. 眼底画像(左眼)
E-G. 蛍光眼底造影画像(右眼)
H. インドシアニングリーン蛍光眼底造影(右眼):造影早期
I. インドシアニングリーン蛍光眼底造影(右眼):造影中期
J. インドシアニングリーン蛍光眼底造影(右眼):造影晩期

図2 B. 非特異的脈絡膜症による漿液性黄斑症を呈した19歳男性患者の左眼のマルチモーダルイメージング(画像A~J)

図2B.非特異的脈絡膜症

A. 光干渉断層計(OCT)解析画像(左眼):中心窩に対し水平
B. 光干渉断層計(OCT)解析画像(左眼):中心窩に対し垂直
C. 眼底画像(左眼)
D-F. 蛍光眼底造影画像(左眼)
G. 網膜自家蛍光画像(左眼)
H. インドシアニングリーン蛍光眼底造影(左眼):造影早期
I. インドシアニングリーン蛍光眼底造影(左眼):造影中期
J. インドシアニングリーン蛍光眼底造影(左眼):造影晩期

結論として、黄斑部の漿液性SRFはCSCに類似した症状を呈し、様々な全身疾患や健康状態で発現する可能性があります。炎症性疾患と悪性腫瘍がこれら疾患群の一端を担っており、遺伝性疾患と眼の発達異常がもう一端となります。しかしながら、これらの疾患のひとつひとつは、適切な臨床的手段と眼科検査を行うことによって、CSCとは診断学的に鑑別することができます。

出典:
Van Dijk EHC, Boon CJF. Serous business:Delineating the broad spectrum of diseases with subretinal fluid in the macula. Prog Retin Eye Res. 2021;4:100955.

最新の話題

2021年米国国立眼研究所の戦略的計画

米国国立眼研究所(NEI)の目的は、視覚研究によって視力低下をなくし、生活の質(QOL)を向上させることです。

解剖学的特徴と疾患に基づく
NEIの中核研究プログラム

解剖学的特徴と疾患に基づくNEIの中核研究プログラム

NEI:米国国立眼研究所

Chiang MF, Tumminia SJ. Ophthalmology. 2021;128(12):1-3.より作図

NEIは、新しい戦略的計画の一環として、視覚系全体の難問に取り組み、有望な発見は臨床治療や公衆衛生に展開していくことを目標に、方法論の専門家と共に、重要な研究プロジェクトを推進していきたいと考えています。
これを達成するために、NEIは、遺伝学、神経科学、免疫学、再生医療、データサイエンス、QOL、ならびに公衆衛生と健康格差、という断続的な7つの重点分野を中心に計画を策定しました(図1)。

図1. 米国国立眼研究所の戦略的計画における7つの分野横断的な重点分野(縦棒)を示した図。
これらは、既存の中核プログラム構造(横棒)に取って代わるものではなく、むしろ、学術的アプローチを必要とする発展的な分野を強調するものです。

図1.米国国立眼研究所

NEIの使命は、視力研究を通して、失明をなくし、QOLを向上させることです(図2)。

図2. 研究成果

図2.研究成果

結論

NEIは、NEI戦略的計画をロードマップとして、将来、委託したプロジェクトにより戦略をデザインし、実行していきます。NEIの科学的発見のための主な推進要素は、今後も研究者主導の研究に携わることです。しかしながら、NEIは、研究者主導のプログラムを立ち上げると共に、研究者がNEIの戦略的計画を考察するようになることを期待しています。

NEI

NEI:米国国立眼研究所

出典:
Chiang MF, Tumminia SJ. The 2021 National Eye Institute strategic plan:The 2021 National and improveing quality of life. Ophthalmology. 2021;128(12):1-3.

研究の紹介

手術をしていない原発開放隅角緑内障に対する
超音波水晶体乳化吸引術と内視鏡的毛様体光凝固術の併用

  • 緑内障は、失明の可能性がある進行性の視神経症です。緑内障を進行させるリスク要因のうち、最も重要で、かつ最も調節ができる因子は眼圧(IOP)の上昇です。
  • 超音波水晶体乳化吸引術と内視鏡的毛様体光凝固術(phaco-ECP)を用いることにより、様々な緑内障患者群で眼圧を下げたり、局所治療薬の使用を減らしたりすることができました。

目的

手術をしていない原発開放隅角緑内障(POAG)に対するphaco-ECPの安全性と有効性を評価すること。

原発開放隅角緑内障(POAG)

IOP:眼圧; SD:標準偏差

Yap TE, et al. Eye(Lond). 2021;10:1-6

図1は、観察期間中の眼圧変化を示したものです。

図1. 眼圧の経時変化

図1.眼圧の経時変化

眼圧の結果は、(A)年間平均眼圧(±95% CI)、(B)年間平均眼圧降下剤の使用回数(±95% CI)を示しています。多重比較向けに補正した結果、いずれの時点においても、基準からの有意な変化がみられました(****p<0.0001)。

表1は、被験眼すべての年間結果を示しています(1年ごとの最終診察)。

表1. 全被験眼の年間パラメータ

全被験眼の年間パラメータ

その後にろ過手術を行った場合、最後の術前観察を行いました(n=1)。
IOP:眼圧; MD:平均偏差; PSD:パターン標準偏差; SD:標準偏差

本試験で、phaco-ECPは眼圧を下げ、点眼剤を減らすことができると結論づけています。また、手術を受けていないPOAG患者群においても優れた安全性が確認されており、低侵襲緑内障手術機器の代替として検討されるべきです。

出典:
Yap TE, Zollet P, et al. Endocydophotocoagulation combined with phacoemulsification in surgically naïve primary open-angle glaucoma:Three-year results, Eye(Lond). 2021;10:1-6.

ガイドラインの更新

European Glaucoma Society Guidelines for Glaucoma, 5th Edition

  • European Glaucoma Society Guidelines for Glaucoma(EGS)の目的は、緑内障患者や緑内障のリスクがある人を管理する眼科医をサポートし、研修生に有用な情報を提供することです。
  • このガイドラインでは、患者のケア、健康、最適な個別化されたケアを重視しています。
  • 最終的な意思決定は、患者のニーズや生活環境に応じて個別に行われるべきであり、利用可能な最善のエビデンスに基づくことが理想的です。

ガイドラインの更新

初回評価時の推奨テスト

初回評価時の推奨テスト

ONH:視神経乳頭; RNFL:網膜神経線維層

※1 OCT:推奨度が低い理由
ソフトウェアベースの分析で同じ機器を使用したOCTディスク/RNFL/黄斑の視神経断層映像が役立つ場合がある。OCT進行分析は視野進行分析に置き換えることはできない。現在、OCT進行分析は年齢補正されていない(加齢に関連した低下はある)。見かけのOCT進行と視野進行は常に相関しているわけではない。
※2 CCT:推奨度が低い理由
CCTは、ほとんどの眼圧計の精度に影響を与える1つのパラメーターである。 角膜が薄い眼では、IOPは過小評価される傾向がある。より薄いCCTは、高眼圧症(OHT)から緑内障への進行リスクが高く、複数の変数モデルで緑内障の進行リスクが高いことに関連している。 ただし、CCTが独立した危険因子であるという強力な証拠はない。 CCTに基づくIOP補正アルゴリズムは検証されていないため、避けるべきである。

Azuara-Blanco A, Bagnasco L, Bagnis A, et al. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition.より作図

GRADE手法を用いて提案された推奨事項:

  • 臨床現場で使用可能な眼圧計については、ゴールドマン圧平眼圧計以外にコンセンサスが得られませんでした。
  • 診断時の治療目標として、目標眼圧を設定すべきです。目標眼圧は、緑内障、またはその他の眼疾患や全身疾患の変化に応じてモニタリングし、診察の度に更新する必要があります。
  • 中心角膜厚は治療開始時のリスクプロファイリングに役立つ場合があります。
  • 前房隅角のイメージングは隅角検査の代わりになりません。隅角検査は、緑内障を評価するすべての患者で実施すべきです。
  • 病態観察に推奨される検査としては、視力、VF検査、視神経乳頭とRNFLの臨床検査、眼圧測定、黄斑イメージング、OCTの進行度、VFの進行度分析などがあります。
  • 実際の診察室で繰り返される意思決定は、緑内障治療を提供する上で効率的な方法となります。
  • プロスタグランジン類似体(PGA)は、最も効果的な薬剤であり、通常、開放隅角緑内障の治療第一選択として推奨されます。
  • シンプルなレジメン、教育、効果的なコミュニケーション(例 自由回答式質問)、アラーム/メッセージによって、治療の遵守を改善することができます。
  • 開放隅角緑内障の第一治療選択として、選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)が利用できます。
  • 開放隅角緑内障の初期外科治療としては、抗線維化薬を用いた線維柱帯切除術が推奨されます。
  • 原発閉塞隅角緑内障(PACG)への介入は、疾患の状態と白内障の有無によって異なります。通常は内科的治療と組み合わせたレーザー治療や外科的治療が推奨されます。
  • プロスタグランジン誘導体はPACGの最も効果的な治療方法です。
  • PACGに対する緑内障手術は、水晶体の状態と緑内障の重症度によって異なります。
  • ガイドラインでは、患者の病歴を把握するための患者との効果的なコミュニケーションが推奨されており、これが疾病予後には重要となります。経過観察時の直接的な質問は、患者の治療と管理に非常に重要です。病気の状態と治療法について患者を教育し、支援とケアを行うことが推奨されています。

図1は、推奨される評価方法によって視機能低下を継続的に評価することは個別の治療のガイドとなることを示しています。

図1. 時間の経過に伴う機能低下は個別の治療のガイドとなります。

図1.時間の経過に伴う機能低下は個別の治療のガイドとなります。

L:年齢を適合させた正常な機能と診断時の機能の間の視覚機能の差;
RoP:生理的欠陥と疾患進行を表す角度;T:出生から診断までの間隔。

出典:
Azuara-Blanco A, Bagnasco L, Bagnis A, et al. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition.